ウエルシュコーギーに多い難病 犬の変性性脊椎症
変性性脊髄症は、進行性の脊髄の病気です。ゆっくりと体が動かなくなりますが、この病気自体の痛みはありません。
日本では「ウエルシュコーギーの変性性脊髄症」として知られています。この病気は残念ながら完治させる治療法はありません。しかしながら、病気をよく理解したうえで適切なケアをしてあげれば発症しても辛い思いをあまりさせないで暮らすことができます。
病気の特徴
10歳過ぎから症状が現れるのが特徴です。症状は後ろ足から少しずつ出はじめていきます。病気が進行すると、前足にも同じ症状が出るようになります。さらに進行すると、呼吸が少しずつしにくくなっていきます。個体差がありますが、症状は3年から4年くらいかけてゆっくりと少しずつ進行していきます。
具体的な経過
①まず、足の甲を地面にすって歩くようになります。爪を見ると爪の上側が擦れて減ってきます。立ち止まって立っているときには、足先が折れ曲がった状態になります。
初期にご家族が病院に来るきっかけとして、「左右にふらふらしながら歩く」「後ろ足を交差させながら歩く」「二本足をそろえて」などがあります。こういった症状は足先の感覚異常により、自分の足の位置がわからなくなるためです。
②次に後ろ足の動きが悪くなっていきます。徐々に下半身を支えられなくなります。痛みが無いため、下半身が動かなくてもどんどん歩いて行きます。下半身を引きずりながら前進します。
④脊髄の病変が進んでいくと、上半身を支えることができなくなります。いつも伏せの状態になります。伏せの姿勢を維持できなくなると、横に寝たようになります。声のかすれが出ることがあります。
⑤ついに起立が困難陥ります。同時に尿失禁や便失禁が起こってきます。首の脊髄に病変が及ぶと呼吸障害が現れ、呼吸障害がさらに進行すると呼吸不全を起こします。発症後約3年で死に至ります。
原因・病態
はっきりとした研究結果は出ていませんが、人に認められるアルツハイマー型認知症、パーキンソン病、ALSと同じような異常によって発生する病気である可能性が高いと考えられています。
診断
現在のところ、診断法は確立されていませんが、おそらくそうであろうという診断をつけるために行います。
【血液検査・脳脊髄液検査・画像診断】
【遺伝子検査】
遺伝子検査については岐阜大学、鹿児島大学で行っています。検査の申込みは動物病院の主治医の先生からの依頼のみです。
ケア・治療
初期のケアの中心は足先の保護です。痛みが伴わないの病気ですので、健康な時と同じように歩きたがります。そのため、爪が擦り減り、足先から出血してしまうことが多いです。硬いコンクリートやアスファルトなどを歩かせないようにすること、家庭でも床の工夫が必要になります。
このことを予防するために、靴下のようなものをはかせることが必要です。ゴム風船のようなタイプのゴム製のカバー(使い捨てタイプ)が良いようです。
いままでの運動を続ける
特別な運動方法やリハビリを行うのではなく、今まで通りの散歩を続けていきます。この病気に関しては運動制限は必要とせず、積極的に運動をする方が良いといわれています。
体重管理をしっかり
運動しっかり継続している症例でも、健康時と比べるとどうしても運動量が減ってしまいます。肥満の状況になると体への負担がどんどん大木になってしまいます。ワンちゃん自身で運動ができる時間を長くするために体重管理は重要です。
車椅子を考える
後足に力が入らなくなると運動の量が減ってしまいます。そうなってしまったら車椅子を考える時期です。後足を支えるという機能だけでなく全身を支える機能のある優れた車椅子を選びましょう。
排泄の問題
ワンちゃん自身が排泄したい気持ちはありますが、排泄が終わったり後でも、尿や便が出てしまっていることが多いです。おもらしで皮膚が汚れない工夫やオやマナーベルトやおむつを使っていきましょう。
また、病気が進行していくと膀胱に常に少量の古い尿が残ってしまい、膀胱炎をおこしやすくなります。膀胱炎を予防するために、ご家族が膀胱を押して排尿させる圧迫排尿をする必要がでてきます。
床材の変更
伏せや横になる時間が増えると床ずれができやすくなります。予防のためには床材や敷物を変える必要があります。マットなどは高反発のものがベストです。通気性の良い床材を考えると良いでしょう。
心の変化に対応する
長く横になったり、寝たままの状態が続くと怒りっぽくなることがあります。動けないことに対するストレスからくる行動であると考えられています。もともと運動の好きな犬種だと辛さも大きいと思います。
問題行動が見られたら、外へ連れ出してみる、マッサージやブラッシングをのスキンシップをとったり、色々なものを噛んでしまう場合は、噛むことで楽しめるおもちゃを与えたり、ストレス軽減に繋がる工夫をしていきましょう。
呼吸機能低下がおこりはじめたら
呼吸がしやすい状況を日常生活ではカートの使用時やご家族が排尿の手助けを行う際などに注意します。また呼吸による体温調節がしにくくなります。熱中症には十分に注意しましょう。冬場でもワンちゃん自身が移動ができないため、暖房器具で体温上昇が起こってしまうことがないよう注意が必要です。
終末期には酸素濃縮器を使った酸素吸入が必要になります。最近は怪しい商品もあるようですのでご注意ください。
これが表示が出鱈目な酸素濃縮機です
— (株)レヴソル やさしい酸素室 公式🐕🐈 (@revsolsanso) 2021年12月3日
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なんならフローも出鱈目でした pic.twitter.com/EQgl4K9oGP
薬物・サプリメントの服用
神経病でよく使われるステロイドは効果がありません。サプリメントなどもまだ有効性が証明されていないようですが、岐阜大学では下記をすすめているようです。
ウコンの成分であるクルクルミンを主成分とする神経疾患用総合サプリメント(ニューロアクト®)(日本全薬工業(株))を使われることが多いです。ニューロアクト®の主成分は、水溶性クルクミン、ヘスペリジン、ビタミンB群、メチルスルフォニルメタン、グルコサミンです。クルクミンには強い抗酸化作用があり、慢性炎症を抑制する効果も報告されています。また、人SOD1蛋白の立体構造異常の結果として起きる凝集体形成を抑制する効果も報告されています。抗酸化作用をもつヘスペリジンや神経修復作用を持つビタミンB群等が総合的に含有されているため、現状ご家族の投薬の負担も少なく、長期的な投与に適しているサプリメントと思われます。
食事の介助
終末期には極端に飲み込む力が悪くなります。食事や飲水が難しくなります。嚥下障害がある場合は、クッションなどを使い頭部をやや高めにして、飲み込みやすく少量ずつ餌を与えるようにします。
ドライフードは少しふやかすと嚥下がしやすくなります。舌の動きがさらに低下すると、特に飲水が困難になるため、スポイトやシリンジ等で飲水の補助をすることが必要です。また、ゼリー状のフードなどを利用すると良いでしょう。人の飲み込みが悪い方の介護をイメージするとよいと思います。
食事のタイプは、それぞれのワンちゃんでよい方法を選ぶ必要があります。当院では流動食でむせる子に、ドライフードを水(お湯でなく)でふやかしてつぶさないままゼリーでコーディングするのが一番だった子もいました。ご家族の努力から生まれた方法です。
参考サイト
ウェルシュ・コーギーの変性性脊髄症 Degenerative Myelopathy(DM)in Welsh Corgi | 診断・治療 | 岐阜大学動物病院 神経科(犬・猫)